はじめに(この記事で分かること)#

スマートフォンの位置情報をオフにすれば、自分の居場所はどこにも残らない。そう考えている人は多いが、位置の記録は一か所にあるわけではない。電源が入っている限り携帯事業者は端末がどの基地局の範囲にいるかを知っているし、OSは位置情報サービスのために周囲のWi-Fiや基地局の情報を使う。アプリに組み込まれた広告や分析の部品(SDK)は、許可された位置情報を開発元とは別の会社へ送りうる。米国の連邦取引委員会(FTC)は2022年以降、そうして集まった位置データを売っていたデータブローカーを相次いで処分してきた。

この記事は、位置の記録を「携帯事業者」「OS」「アプリのSDK」「ブローカー」の4か所に分け、それぞれ誰が持っていて、どんな条件で他人に渡りうるかを整理する。日本の制度については、GPS捜査をめぐる最高裁大法廷判決(2017年3月15日)の判決文と、個人情報保護委員会・総務省のガイドライン解説の文言を直接引く。設定の話はAppleとGoogleの公式ヘルプに書かれている範囲にとどめる。

前提: 脅威モデルの整理#

脅威モデル入門では相手を5種類に分けた。位置情報については、この5者がそれぞれ別の記録に手を伸ばす。

回線事業者、ここでは携帯事業者は、基地局との接続記録という形で、利用者の意思と関係なく位置を知る。プラットフォームにあたるのはAppleやGoogleといったOSの提供者と、個々のアプリの運営者だ。広告網とデータブローカーは、アプリに組み込まれたSDKや広告取引の経路を通じて位置データを集め、名前ではなく端末の広告IDに紐付けて売買する。法執行機関は、日本では事業者の記録を令状で取り寄せる立場にある。標的型攻撃者、たとえば元交際相手は、令状も購買力も持たない代わりに、家族向けの位置共有や追跡タグ、投稿された写真といった、本人の周りにある経路を使う。

この記事の対策が効く範囲は相手によってかなり違う。OSの権限設定は、アプリとSDKとブローカーという下流の相手には強く効く。携帯事業者には、電源を入れて回線につないでいる限りほとんど効かない。したがって法執行機関に対しても、事業者の記録を経由する部分には効かない。標的型攻撃者については、この記事は記録の在りかを示すところまでで、位置共有やストーカーウェアの点検は同居人・元交際相手の記事に譲る。

携帯事業者に残るもの: 基地局情報#

携帯電話は、通話もデータ通信もしていないときでも、近くの基地局と連絡を取り続けている。米国連邦最高裁のCarpenter判決(2018年6月22日)は、法廷意見の冒頭でこの仕組みを説明している。携帯電話は最も強い電波を求めて周囲を絶えず探し、現代の端末は使っていなくても1分間に何度もネットワークに接続する。基地局に接続するたびに、時刻の入った記録(cell-site location information)が生まれる。精度は基地局がカバーする範囲の広さで決まり、基地局が密な都市部ほど狭くなる。

EFFの監視対策ガイド「Surveillance Self-Defense」は、この種の追跡について、携帯電話の電源が入っていて事業者のネットワークに電波を出している限り「隠れる方法はない」と書いている。なお、このページの最終レビューは2018年10月29日で、細部は古い可能性がある。

回線そのものが識別子になる#

基地局の向こうにいる事業者が見ているのは「電話番号」だけではない。EFFのガイドは、SIMを差し替えたり別の端末に移したりしても、ネットワークはSIMと端末を一緒に観測しているので保護は「最小限」だとし、事業者はどのSIMがどの端末で使われたかの履歴をたどれると説明している。SIM側の識別番号がIMSI(加入者の識別番号)、端末側の識別番号がIMEI(端末の製造番号)だ。

日本では、音声通話のできる携帯電話の契約に本人確認が義務づけられており、データ通信専用SIMも2027年までに対象に加わる。この経緯はIPアドレスの記事にまとめた。ネットワーク機器の記事で「回線自体が識別子になる」と書いたのは、ここでいう契約者情報とIMSI・IMEIの組み合わせのことだ。端末を買い替えても、同じSIMを差せば新しい端末は古い契約に結びつく。逆に、別のSIMを同じ端末に差せば、二つの契約がIMEIでつながる。

アプリの側からは、この識別番号は見えにくくなっている。GrapheneOSのFAQによれば、Android 10以降、アプリはIMEIやSIMのシリアル番号、加入者IDといった再設定できないハードウェア識別子にアクセスする権限を得られない(例外はOSに組み込まれた特権アプリと、SMS/MMSを扱う既定のメッセージアプリ)。IMEIとIMSIを見ているのは、主に回線の向こう側の事業者だということになる。

日本で捜査機関が基地局情報を取得する条件#

日本の電気通信事業者が位置情報をどう扱うべきかは、個人情報保護委員会と総務省の「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン」第41条と、その解説(令和8年6月更新版)に書かれている。

解説はまず、ここでいう位置情報を、移動体端末を持つ人の所在を示す情報で「基地局エリア若しくは位置登録エリア程度又はそれらより狭い範囲」を示すものと定義している。請求明細に載る着信地域のような粗い情報は含まない。別の箇所では、電気通信事業者が扱う位置情報として「基地局に係る位置情報、GPS位置情報、Wi-Fi位置情報など」を挙げている。

そのうえで、位置情報の性格を二つに分ける。通話や通信のときの位置情報は「個々の通信に関係する場合は通信の構成要素」であり、通信の秘密として保護される。一方、通信していないときに端末がエリアを移るたびに基地局へ送られる位置登録情報は、通信を成立させる前提として機械的に送られる情報にすぎず、サービス制御局に蓄積されたものは通信の秘密ではなくプライバシーとして保護すべき事項だとする。ただし解説は、その場合でも「ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い」として、強い保護を求めている。

捜査機関との関係では、第41条4項がはっきりしている。事業者は、捜査機関からの要請で位置情報の取得を求められた場合、「裁判官の発付した令状に従うときに限り」取得できる。解説は、通信の秘密に当たらない位置情報についても同じ扱いにする理由を、上の「特に保護の必要性が高い」という評価で説明している。捜査関係事項照会の記事で見たとおり、令状のない照会に対しては原則として応じるべきとされる事項もあるが、位置情報はその外に置かれている。

例外は人命救助だ。第41条5項は、警察、海上保安庁、消防などの救助機関から要請があり、救助を要する人の生命・身体への重大な危険が切迫していて、早期発見のために位置情報の取得が不可欠な場合に限って取得を認める。解説はここで、GPS位置情報について、通信の秘密ではなくプライバシーの問題として扱うべき情報だが「基地局に係る位置情報と比べ、高いプライバシー性を有する」と述べている。

記録がいつまで残るかについて、解説は通信履歴(第38条)について「記録目的の達成に必要最小限の範囲内で保存期間を設定」し、経過したら速やかに消去するよう求めている。日本の各携帯事業者が基地局の記録を実際に何日あるいは何年保存しているかは、この記事では確認できていない。米国についてはCarpenter判決が、多くの事業者の保存方針が5年であることに触れている。

GPS捜査の最高裁判決が言ったこと#

日本の位置情報と令状の関係を語るとき、必ず引かれるのが最高裁大法廷の平成29年3月15日判決(平成28年(あ)第442号)だ。ただし、この判決が直接扱ったのはスマートフォンでも基地局でもない。警察が約6か月半にわたり、被告人や共犯者、知人女性が使う可能性のあった自動車など合計19台に、承諾も令状もなくGPS端末を取り付け、所在を検索していた事件だ。

判決は、GPS捜査が公道上だけでなく「個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるもの」も含めて対象車両と使用者の所在と移動状況を逐一把握できると指摘し、「個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴う」とした。さらに、そうした機器を所持品にひそかに装着する点で「公権力による私的領域への侵入を伴う」と述べ、憲法35条の保障は「住居,書類及び所持品」に準ずる私的領域に侵入されない権利を含むと解釈した。結論は、GPS捜査は刑事訴訟法上の強制の処分に当たり、「令状がなければ行うことのできない処分」だというものだ。

判決はそこで止まらなかった。既存の検証許可状などで行うとしても、車両と罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない行動の過剰な把握を抑えられず、事前に令状を示すこともできないので、今の法律の令状を発付することには「疑義がある」とした。そして、GPS捜査が今後も有力な手法であるなら「立法的な措置が講じられることが望ましい」と書いた。裁判官全員一致の判断だ。

この指摘は立法にも跡を残している。同じ2017年の組織的犯罪処罰法などの改正(平成29年法律第67号)の附則12条2項は、この判決を名指しして、GPS端末を車両に取り付ける捜査の制度の在り方を施行後速やかに検討するよう政府に求めた。2026年11月8日時点のe-Gov法令検索で刑事訴訟法(2026年10月20日施行版)の本文を「位置情報」で検索しても、出てくるのはこの附則だけで、GPS捜査の根拠規定は本則に見当たらなかった。刑事訴訟法以外の法律で手当てされたかどうかまでは、この記事では確認していない。

ここからは推測を含む。この判決は車両に機器を取り付ける捜査についてのもので、携帯事業者が業務上持っている基地局の記録を取り寄せる場面を直接判断したものではない。それでも、「継続的,網羅的に把握する」ことをプライバシー侵害の中心に置いた論理は、事業者の位置情報の扱いを考えるうえでも参照されやすいとみられる。事業者側の令状要件の直接の根拠は、判決ではなく上のガイドライン第41条4項だ。

米国では、事業者の記録そのものについて連邦最高裁が判断している。Carpenter判決では、捜査機関が裁判所命令(「合理的な根拠」を示せば出る、令状より緩い基準のもの)で事業者2社から127日分などの記録を取り寄せ、1日平均101点、合計12,898点の位置を得ていた。最高裁は5対4で、これを令状が必要な「捜索」に当たると判断した。ただし法廷意見は自ら「狭い」判断だと断り、リアルタイムの位置情報や、特定の時間に特定の基地局につながった全端末の記録(tower dump)については判断しないとしている。日本と米国では令状の仕組みが違うので、この判決を日本にそのまま当てはめることはできない。

OSとアプリに残るもの: 位置情報の権限#

基地局の記録は数百メートルから数キロの粒度だが、スマートフォンのOSはもっと細かく位置を決められる。AppleのiPhone向けの説明によれば、位置情報サービスは携帯回線、Wi-Fi、GPS、Bluetoothの情報を使って位置を割り出す。Androidのヘルプも、Googleの位置精度の機能がWi-Fiのアクセスポイント、携帯の基地局、GPSに加え、加速度計やジャイロスコープといったセンサーの情報を使うと説明している。

おおよその位置と正確な位置#

どちらのOSも、アプリに渡す位置の精度を利用者が選べる。Androidの開発者向け文書は、「おおよその位置」をおよそ3平方キロメートル以内、「正確な位置」を通常およそ50メートル以内、場合によっては数メートル以内と説明している。Android 12以降では、アプリごとに正確な位置の許可を別に管理できる。iPhoneでは、設定の「プライバシーとセキュリティ」から「位置情報サービス」に進み、アプリごとに「正確な位置情報」をオフにすれば、おおよその位置だけを共有する。Appleは、正確な位置が要らないアプリにはそれで足りることがある、と書いている。

天気予報のアプリが知りたいのは市区町村であって、どの建物にいるかではない。おおよその位置の精度が3平方キロメートル程度なら、自宅の住所は割り出しにくくなる。地図アプリやタクシーの配車のように正確な位置が本当に要るアプリだけに、正確な位置を残せばよい。

バックグラウンドでの取得#

もう一つの軸は、アプリが画面に出ていないときにも位置を取れるかどうかだ。Androidでは、Android 10以降、バックグラウンドでの位置取得に別の権限が必要になった。それ以前のバージョンでは、画面表示中の位置取得を許可するとバックグラウンドの取得も自動的に許可されていた。Android 10以降では、許可したアプリが初めてバックグラウンドで位置を取得したときに、常に位置へのアクセスを許可していることを知らせる通知が出る。iPhoneでは、アプリの許可は「1回だけ許可」「アプリの使用中は許可」「許可しない」から選び、アプリはその後でバックグラウンドの使用を求めることがある。

背景で位置を取るアプリは、1日の移動の軌跡を作れる。自宅で夜を過ごし、職場で昼を過ごす軌跡があれば、後で見るブローカーの事例のとおり、名前がなくても本人に近づける。位置を常に使う必要があるアプリは、家族の位置共有や、家を出ると家電を止めるようなものに限られる。

OS自身が持つ記録#

アプリとは別に、OS提供者のサービス自体も位置の記録を持ちうる。iPhoneの「利用頻度の高い場所と経路」(Significant Locations & Routes)は、最近訪れた場所、その頻度と時刻、そこへの経路を記録する。Appleの説明では、この情報はエンドツーエンド暗号化で端末間を同期し、Appleは読めない。オフにするには「位置情報サービス」の「システムサービス」から切り替える。また、位置情報サービスがオンのとき、iPhoneは近くのWi-Fiアクセスポイントと基地局の位置を定期的にAppleへ送り、位置情報のデータベースの改善に使う。Appleはこれを匿名かつ暗号化された形で行うと説明している。

Googleマップの「タイムライン」は、2026年11月時点のヘルプによれば初期設定でオフで、利用者が選んだ場合にだけ有効になる。有効にすると、各端末の正確な位置がその端末に定期的に保存される。3か月、18か月、36か月を超えたデータを自動削除する選択肢があり、バックアップをオンにすると暗号化されたコピーがGoogleのサーバーに保存される。オフにするか削除するかは、マップの設定かGoogleのマイアクティビティから選べる。

ここからは推測になる。記録が端末にだけあり、事業者が復号できない形でしか持っていないなら、その事業者に法的手続きが来ても渡せるものは少ない。捜査照会の記事で書いた「持っていないものは出せない」構造が、位置の記録にも当てはまる。ただし、そのぶん端末そのものの中身が重くなる。端末を押収されたり、パスコードを知る同居人が手に取ったりする場面では、端末内の記録がそのまま見られる。

SDKとブローカー: 売られる位置データ#

アプリに位置情報の許可を与えるとき、多くの人はそのアプリの運営者に位置を渡しているつもりでいる。実際には、アプリの中に組み込まれた別の会社のSDKも、同じ許可のもとで動きうる。Androidの開発者向け文書には、アプリが使うSDKが位置情報の権限、とくに正確な位置の権限に依存していないかを確かめるよう求める項目がある。アプリの権限は、アプリに同居するSDKの権限でもある。

FTCが処分した5社#

米国のFTCは、2022年から2026年にかけて、位置データを扱うブローカーを相次いで処分した。FTCの公式発表に書かれた内容を、事業者ごとに並べる。

事業者FTCの発表日発表に書かれたデータの集め方と問題命令の内容
Kochava提訴2022-08-29、和解の発表2026-05-04数億台の端末に由来する位置情報を買い集め、端末固有の識別番号と照合したデータフィードとして販売。公開サンプルだけで直前1週間の6,100万台以上の端末の時刻付きの正確な位置を含んでいた子会社とともに、利用者の明示的な同意がない限り、医療機関や礼拝所などのセンシティブな場所の位置データの販売・共有を禁止。委員会の承認は2対0
X-Mode Social / Outlogic2024-01-09、最終命令2024-04-12自社アプリと、自社SDKを組み込んだ他社アプリから収集し、ほかのブローカーからも購入。不動産や金融の顧客、民間の政府請負業者などに販売。一部のAndroid利用者による追跡拒否の設定を尊重する仕組みが不十分センシティブな位置データの共有・販売を禁止。2023年5月までセンシティブな場所を生データから除いていなかった
InMarket最終命令2024-05-01自社アプリと、自社SDKを組み込んだ他社アプリから収集。SDKを使う他社アプリが利用者の十分な同意を得ているかを確かめていなかった正確な位置データの販売・共有・ライセンス供与を全面的に禁止
Gravy Analytics / Venntel2024-12-03、最終命令2025-01-14ほかのデータ供給元から位置情報を入手し、1日に約10億台の端末から170億以上の信号を集めると自称。ジオフェンスで医療関連の催しや礼拝所を訪れた人のリストを作って販売し、健康、政治活動、宗教上の立場といった属性を位置から推定して販売センシティブな位置データの販売・開示・利用を禁止(国家安全保障や法執行に関わる限られた場合を除く)。委員会の承認は5対0
Mobilewalla2024-12-03、最終命令2025-01-14広告のリアルタイム入札で、落札できなかった場合も入札リクエストの情報を集めて保持。2018年1月から2020年6月に、5億以上の広告IDを正確な位置と組み合わせて収集センシティブな場所の位置データの利用・販売を禁止。オークションへの参加以外の目的で広告取引所から消費者データを集めることを禁止。委員会の承認は4対1

この表から読み取れる経路は三つある。一つ目は、アプリに組み込まれたSDKが位置を集める経路で、X-ModeとInMarketがこれに当たる。二つ目は、ブローカーどうしが位置データを売り買いする経路で、KochavaとGravyは他社から買い集めていた。三つ目は、広告の入札そのものだ。広告枠が表示されるたびに、端末の広告IDと位置を含む入札リクエストが多数の入札者に配られる。Mobilewallaは、落札できなかった入札からも情報を集めていた。FTCはこれを不公正な行為と主張したのは初めてだとしている。三つ目の経路では、アプリが位置を誰かに売る契約をしていなくても、広告を表示するだけで位置が外に出うる。

名前がなくても、位置は人を指す。FTCは2022年のKochavaの発表で、夜間の端末の位置は利用者の自宅の住所である可能性が高く、不動産の登記記録などと組み合わせれば身元が分かりうると書いた。Gravyの件では、このデータは個人の特定に使えるもので匿名化されていない、と述べている。

日本ではどう扱われるか#

上の5件は米国の事例で、日本で同じ規模の位置データの売買が摘発された事例は、この記事を書くにあたって一次資料で確認できなかった。日本の制度について、文言を確かめられたものを二つ挙げる。

一つは、位置情報が「個人関連情報」の典型例とされていることだ。上のガイドライン解説は、個人関連情報の例として「ある個人の位置情報」「ある個人の利用する情報端末に係る端末識別子」「情報収集モジュール等を通じて収集された、ある個人のアプリケーションの利用履歴や利用者端末情報」を挙げる。そして、位置情報はそれ自体では一般に個人情報に当たらないが、「連続的に蓄積されるなどして特定の個人を識別することができる場合」には個人情報に当たると注記している。さらに、事業者が「高精度又は連続した位置情報等」を、提供先が個人データと紐付けることを念頭にIDと一緒に提供する場面を、提供先での個人データとしての取得が通常想定できる事例として挙げている。

もう一つは、電気通信事業法27条の12のいわゆる外部送信の規律だ。対象となる事業者がアプリやウェブサイトを通じて利用者の端末から外部へ情報を送らせるときは、送られる情報の内容や送信先などを、あらかじめ利用者に通知するか、利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。対象は総務省令で定める役務の提供者に限られ、求められているのは通知や公表であって、送信ごとの同意ではない。

推測を一つ付け加える。日本のアプリでも、外部送信についての公表ページを読めば、どの会社のSDKに何が送られているかの手がかりは得られる。ただ、その先で送信先がデータをどう扱い、誰に渡しているかまでは、利用者からは見えない。

Wi-Fi・Bluetooth・写真#

スキャンは「接続」とは別に動く#

Wi-FiやBluetoothは、接続していなくても位置の手がかりになる。Androidの位置情報の設定には「Wi-Fiスキャン」と「Bluetoothスキャン」の項目があり、Googleのヘルプはこれらを、アプリがより良い位置情報を得られるよう、端末が近くのWi-FiアクセスポイントやBluetooth機器を探すための設定だと説明している。Androidの開発者向けリファレンスには、Wi-Fiをオフにしていてもスキャンを利用できるようにする設定画面を呼び出す仕組みが、API level 18から用意されている。つまり、クイック設定でWi-Fiをオフにすることと、Wi-Fiのスキャンをやめることは別だ。

iPhoneにも似た挙動がある。Appleによれば、コントロールセンターでWi-FiやBluetoothをオフにすると、Wi-FiのネットワークやBluetoothのアクセサリとの接続はすぐ切れるが、AirDrop、位置情報サービス、AirPlay、Apple Watchなどのためには引き続き使える状態に残る。完全にオフにするには、設定アプリのWi-Fi、Bluetoothの項目から切る。

Bluetoothは近接の検知にも使われる。Appleの説明は、BluetoothがiBeaconと組み合わさって、ある範囲への出入りを監視するのに使われると書いている。店舗や施設に置かれた小さな発信機の近くを通ったことが、アプリの位置情報の許可を通じて記録されうるということだ。

周囲から見える識別子の問題もある。EFFのガイドは、端末がWi-FiやBluetoothでMACアドレスという機器固有の番号を発信し、近くの第三者がそれを観測できると書いている。現在の主要なスマートフォンはMACアドレスのランダム化を備えており、GrapheneOSのFAQも対応端末の要件の一つにランダム化を挙げている。EFFの記述は2018年のものなので、この点は古くなっているとみられる。

写真に入る位置#

写真には、撮影時の位置を書き込む機能がある。AppleのPersonal Safetyガイドは、写真や動画の位置のメタデータは、カメラアプリが位置情報サービスへのアクセスを持つ場合にだけ記録されると書いている。カメラの位置情報を「許可しない」にすれば、それ以降の写真に位置は入らない。共有するときに個別に外すなら、写真アプリの共有画面で「オプション」を開き、位置情報をオフにする。オフになっていれば「位置情報なし」と表示される。

EXIFの扱いと除去の道具はソフトウェア構成の記事にまとめた。位置のデータを消しても、写っている景色から場所が推定されることがある。その問題は写真からの位置特定の記事で扱う。

対策の限界#

位置の記録を減らす手段として、よく挙がるのが位置情報サービスのオフ、機内モード、電源オフ、端末の分離だ。それぞれが止めるものと止めないものは、相手によって違う。公式の説明で確認できたことを表にまとめる。

手段止められるもの止められないもの
位置情報サービスをオフにするアプリとSDKがOS経由で位置を取ること、OSの位置履歴の新たな記録基地局の記録。Androidでは緊急通報時に端末の位置が自動送信されうる(Googleのヘルプ)。IPアドレスからのおおよその位置の推定
アプリごとに「おおよその位置」「使用中のみ」にする正確な位置とバックグラウンドでの軌跡の取得アプリを開いている間のおおよその位置。広告の入札に乗る情報
機内モード携帯回線の送受信(GrapheneOSのFAQは、機内モードが携帯回線の送受信を完全に無効にし、携帯ネットワークによる追跡を避ける唯一の方法だとする)機内モード中に手動で戻したWi-FiやBluetooth。iPhoneは機内モード中のBluetoothのオン・オフを次回も引き継ぐ。それ以前に残った記録
電源オフ電源を切っている間の基地局との通信電源を切った時刻と場所という事実。それ以前の記録すべて
端末を分けるアプリやアカウントのレベルでの二つの生活の混線同じ場所で同じ時間に動く二台の端末の相関。同じSIMや同じ端末の使い回しによる結びつき

いくつか補足する。Appleの機内モードの説明は、機内モードをオンにするとBluetooth以外の無線がオフになるとし、航空会社が認めればWi-FiとBluetoothを使えるとしている。位置情報サービスそのものが機内モードで止まるとは書かれていない。ここからは推測になるが、GPSは衛星からの電波を受信するだけなので、機内モード中も端末の中では位置が求められ、アプリが記録しておいて回線が戻ったときに送ることは、機内モードでは防げないと考えるのが自然だ。

電源オフについて、EFFのガイドは二つの留意点を挙げている。一つは、電源が切れたように見せかけて動き続けるマルウェアへの懸念から、バッテリーを抜く人がいること。もう一つは、ある場所で大勢が一斉に電源を切ると、それ自体が事業者にとって何かが起きている兆候になることだ。EFFは代わりに、全員の端末を別の部屋に置いておく方法を挙げている。

端末の分離は、もっとも強い手段に見えて、運用の失敗に弱い。EFFは使い捨ての端末を有効に使う条件として、SIMも端末も再利用しないこと、異なる端末を一緒に持ち歩かないこと、異なる端末を使う場所のあいだに物理的な結びつきを作らないことを挙げている。仕事用と私用の二台を同じ鞄に入れて毎日同じ経路で持ち歩けば、事業者の記録の上では二台が同じ人のものであることがほぼ明らかになる、というのが著者の読みだ。区画の分け方そのものはカンパートメント化のワークシートで扱う。

GrapheneOSのFAQにはもう一つ興味深い記述がある。携帯回線と位置情報の両方が有効なとき、端末は衛星測位を速めるために、近くの基地局をもとにしたおおよその位置をサーバーから受け取る。この問い合わせ先(SUPL)は事業者以外のサーバーであることが多く、GrapheneOSは初期設定で自前の中継サーバーを使い、問い合わせにIMSIと電話番号を含めないようにしている。位置の記録は、利用者が名前を知らない会社のサーバーにも生まれうる。

限界と残るリスク#

この記事の対策は、すでに残った記録を消さない。基地局の記録は事業者の保存期間のあいだ残り、ブローカーに売られた位置データは、FTCの命令が後から削除を求めた例があるとはいえ、利用者が自分で追いかけて消せるものではない。設定を変えた日から先の記録が減るだけだ。

携帯事業者の記録については、日本の制度は捜査機関による取得に令状を求めているが、令状が出れば事業者は応じる。この記事が示せるのは、その記録がどんな条件で渡るかであって、渡らないようにする方法ではない。携帯回線を使わないことが唯一の回避策だが、それは電話としての機能を手放すことでもある。

FTCの事例は米国の制度のもとでの処分で、日本の利用者のデータが同じ経路で売買されているかどうかは、この記事の範囲では確かめていない。日本のアプリに組み込まれたSDKや広告の入札が同じように位置を外に出しているかについては、外部送信の公表ページから手がかりを得られる程度だ。

設定の名前と場所は、OSの版によって変わる。この記事の説明は2026年11月時点のAppleとGoogleのヘルプに基づいており、端末のメーカーや版によって画面が違うことがある。また、どの設定をしても、位置を共有する相手を自分で選んだ機能、たとえば家族の見守りや友人との位置共有は、選んだ相手には位置を見せ続ける。標的型攻撃者が使うのは多くの場合この経路で、同居人・元交際相手の記事で点検の手順を扱っている。

まとめ#

一般の利用者にとって、位置の記録のうち自分で一番減らせるのは、アプリとSDKとブローカーにつながる部分だ。今日できる確認を一つ挙げるなら、位置情報の設定画面でアプリの一覧を開き、「常に」あるいはバックグラウンドの取得を許しているアプリを数えることだ。地図と、自分で選んだ家族の位置共有以外に残っているものは、「使用中のみ」か「おおよその位置」に下げても困らないことが多い。広告のついた無料アプリほど、位置が入札やSDKを通って外に出る経路が多いとみてよい。

記者や支援者で、取材源と会った場所や時間を守る必要がある人にとっての主な相手は、携帯事業者の記録と、それを令状で取り寄せられる立場の人だ。この記録はアプリの設定では減らない。今日できる確認は、取材で人に会うときに自分の端末がどう扱われているかを一度振り返ることだ。端末を持って行けば、事業者の記録には会った場所と時間が残る。電源を一斉に切ることが目印になるというEFFの指摘も合わせて考えると、端末を持って行かない日を作るか、別の部屋に置くかのどちらが自分の状況に合うかを決めておくのが現実的だ。

元交際相手や同居人が相手として思い浮かぶ人は、この記事の範囲を超えて、まず位置共有と端末の共有を点検してほしい。その手順と相談先は同居人・元交際相手の記事にまとめている。

出典#