はじめに(この記事で分かること)#

2023年4月、スウェーデン警察が令状を持ってMullvadの事務所を訪れ、顧客データの入ったコンピューターを押収しようとした。警察は何も持たずに帰った。Mullvadの説明では、押収する対象のデータがそもそも存在しなかったからだ。

この一件は「ノーログ」が宣言ではなく実地で試された数少ない記録として、ノーログVPN 2026年版でも匿名性重視のVPNランキングでも中心に置いてきた。この記事では、その一件の中身と読み方を確かめたうえで、監査、アカウントと決済、管轄とインフラ、技術の5軸でMullvadを個別に評価する。各軸で、Mullvad自身の説明と、監査機関など第三者が確かめた内容を分けて書く。

Mullvadは「Policy on reviews, advertising, influencers, and affiliates」(2024-05-15更新)で、レビューに対価を払わないこと、アフィリエイトを持たずインフルエンサーにも払わないこと、自社サイトへの被リンクにすら対価を払わないことを明言している。この記事にもアフィリエイトリンクはない。ランキング記事と同じく、収益と関係なく評価したものとして読んでほしい。

前提: 脅威モデルの整理#

脅威モデル入門では、隠す相手をISP、プラットフォーム、広告網・データブローカー、法執行機関、標的型攻撃者の5種類に分けた。VPNを使うと、ISPから見えていた「どこに接続したか」が見えなくなる。その代わり、同じ情報がVPN事業者一社に集まる。VPN選びとは、この一社を誰にするかの選択だ。

VPN事業者の立場からは、接続元のIPアドレスと接続先、時刻、通信量が技術的には見える位置にある。ノーログ方針とは、それを記録しないという約束にすぎない。だから評価の問いは二つになる。記録しないという約束を外から確かめる材料があるか。そして約束が破られたとき、あるいは事業者が強制的な手続きを受けたとき、自分の実名にたどり着く手がかりがどこに残っているか。後者で効いてくるのが、アカウントの識別子と支払い手段だ。

逆に、VPN事業者をどれだけ慎重に選んでも、サイト側のCookieやブラウザの特徴、ログインしたアカウントからの追跡は防げない。この記事の評価は、VPN事業者という一つの観測点についてのものだ。

5軸評価: ノーログ実績#

2023年4月の令状捜査で起きたこと#

Mullvadの公式ブログ(2023-04-20)によれば、4月18日、スウェーデン警察National Operations Department(NOA)の警察官が少なくとも6人、捜索令状を持って事務所を訪れた。目的は「顧客データの入ったコンピューターを押収すること」だった。Mullvad側は、探しているものが見つかると期待する理由がなく、押収はスウェーデン法上違法になると主張した。サービスの仕組みを説明し、警察が検察官と協議した結果、警察は何も持ち帰らず、顧客情報も得ずに引き揚げたという。Mullvadは同じ記事で、14年以上の運営で令状を伴う訪問は初めてだと書いている。

この記録の読み方#

令状捜査は、事業者が自分で準備できない場面で方針が試されるという点で、ポリシーの文面や監査よりも強い材料になる。ノーログVPN 2026年版の証拠レベルでは、L3(法的手続きでの実証)にあたる。

ただし、確かめられた範囲には限りがある。まず、この経過はMullvad側の発表に基づく。警察側の発表や裁判記録で経過を確かめる作業は、今回の執筆では行っていない。次に、示されたのは「2023年4月18日の時点で、事務所に押収すべき顧客データがなかった」ことだ。将来も記録しないことや、特定の利用者を狙って記録を始めるよう強制された場合にどうなるかまでは示していない。この点の補足として、Mullvadの「Swedish legislation」ページ(2025-03-11更新)は、VPN事業者は電子通信法(LEK)上の通信網に当たらずデータ保存義務の対象外だと説明する一方、警察は押収や捜索といった強制処分で情報を得うると認めている。そのうえで「持っていないデータは誰にも渡せない」と書く。強制処分が来ることを前提に、渡すものを持たない設計で応じるという考え方だ。

方針の文面で何が記録されないか#

ノーログ方針(2026-06-17更新)は、接続の開始・切断・継続時間などのタイムスタンプ、IPアドレス、利用者ごとの帯域を記録しないと書く。同時接続数の上限(5台)を守るためにアカウントごとの接続数はリアルタイムで監視するが、一時メモリ上で処理しディスクには保存しないという。ウェブサイトのNginxアクセスログは、IPアドレスを含まない形式で最大5分間保存すると明記している。どこまで記録しないかだけでなく、何を短時間だけ持つかまで書いてある点は、他社のポリシーと比べるときの基準になる。

5軸評価: 監査#

Mullvadは監査レポートを公開している。公式ブログの「External audits」タグには2017年以降の監査記事が並び、今回確認した範囲では、記事中のリンクから監査機関側のレポート本文に到達できた。VPNサーバー(リレー)を対象にした監査と、アプリや決済システムを対象にした監査は性格が違うので、分けて見る。

公表日監査機関対象結果の要点(レポート・公式ブログの記載)
2022-06AssuredVPNサーバー3台(WireGuard 2台、OpenVPN 1台)顧客データのログや情報漏洩は見つからず。OpenVPNの認証失敗ログ(Medium)などを指摘
2023-08Radically Open SecurityRAMで動くVPNサーバー2台利用者の活動データのログは見つからず。High 1件を含む計25件の指摘
2024-06Cure53VPNサーバー2台(ステージング環境)とAnsibleコード通信の匿名性・完全性を損なう問題は見つからず。指摘はMedium 1件、Low 1件ほか
2024-12X41 D-Sec全プラットフォームのアプリHigh 3件、Medium 2件、Low 1件
2026-01X41 D-Sec決済・アカウントAPIと関連バックエンドMedium 3件、Low 2件。利用者データにアクセスできる問題はないと説明
2026-03Assured自社のWireGuard実装GotaTun v0.2.0重大な脆弱性なし、Low 2件
2026-06Leviathan Security GroupAndroidアプリ2026.2指摘6件のうち4件を修正し、再検査で合格

ノーログという観点で最も関係が深いのは、サーバー監査の3件だ。2022年のAssuredのレポートは、監査の目的に「サーバーを使う利用者を明かすログや情報漏洩がないこと」を掲げ、顧客データのログは見つからなかったと結論した。一方で、同じレポートは、OpenVPNサーバーで不正なアカウント番号による認証失敗が接続元IPアドレスとともにディスクに記録され、1時間ごとに消去されていたことをMediumとして指摘している。デバッグ設定に切り替えると接続中のクライアント情報が記録されうる構成もLowとして挙げた。2023年のRadically Open Securityの監査は、RAMで動くサーバーを対象に「利用者の活動データのログは見つからなかった」と書いた。2024年のCure53は、本番と同一構成のステージング環境で、通信の匿名性や完全性を損なう方法を探したが見つからなかったと結論している。

この記録の読み方#

レポートが公開され、細かい指摘まで読めることは、それ自体が評価材料になる。上の認証失敗ログのような「ノーログ」の文言と食い違いうる細部は、レポートが非公開なら外からは分からない。

監査が保証する範囲にも限りがある。どの監査も、決められた期間に、指定された少数のサーバーやコードを調べたものだ。全サーバーが常に同じ状態であることまでは保証しない。2026-11-08時点で公式ブログの監査記事を見る限り、VPNサーバーを対象にした監査は2024年6月のCure53が最新で、それ以降の監査はアプリ、決済システム、WireGuard実装が対象だった。サーバー側の第三者検証は2年以上前の状態を示している、という点は割り引いて読む必要がある。

5軸評価: 匿名開設と決済#

アカウントの識別子#

Mullvadは登録時にユーザー名もパスワードもメールアドレスも求めない、とノーログ方針に明記している。発行されるのはランダムなアカウント番号だけで、2017-06-20の公式ブログによれば、その時点から桁数は16桁になった。この番号がそのままログインの鍵になる。メールアドレスや電話番号という、他のサービスと照合されやすい識別子が最初から存在しない。

その代わり、番号を失えば取り戻す手段は限られる。暗号資産での支払いについては、2023年1月1日から返金とアカウント復旧の両方を受け付けないと公式ブログ(2022-12-01)が告知している。理由は、アカウントと公開台帳上の取引記録の結びつきを早く断つためだという。匿名性と引き換えに、トラブルのときに頼れる手続きが減る。

料金と支払い手段#

料金ページ(2026-11-08確認)では、1か月でも1年でも10年でも月額5ユーロの定額で、付加価値税込みと書かれている。同じページの換算表示は5.57米ドルだった。日本円の表示はない。1アカウントで使えるのは5台まで。14日間の返金保証があるが、現金での支払いはマネーロンダリング規制を理由に対象外とされている。暗号資産での支払いは、手数料と事務負担が少ないことを理由に10%割り引かれる。

ノーログ方針が挙げる支払い手段は、現金、Bitcoin、Bitcoin Cash、Monero、銀行振込、クレジットカード、PayPal、Swishだ。料金ページにはこれに加えて、欧州の口座決済(Eps、Bancontact、iDEAL | Wero、Przelewy24)が並ぶ。2025年8月5日からはBitcoinのLightning Networkでの支払いも始まり、公式ブログは自社でlndのノードを運用していると説明している。Lightningも返金の対象外だ。

支払いごとに何が残るか#

Mullvadの方針は、支払い手段ごとに残る記録を具体的に書いている。BitcoinとBitcoin Cashでは、支払いごとに生成した受取アドレスを保存し、20日後に削除する。Moneroでは二重計上を防ぐために取引ハッシュを保存し、これは20日を超えて残る。現金は封筒にアカウント番号ではなく支払い用のトークンを同封させる方式で、照合されていないトークンは郵便の遅れに備えて120日間保存される。銀行振込では、アカウント番号が振込のメッセージ欄に残る。PayPalやStripeといった決済代行会社はアカウント番号を持っていない、とも書いている。加えて「Swedish legislation」ページは、会計や支払いの記録の一部は法律上保存が必要だと認めている。

この記録の読み方#

支払い手段のうち、Mullvad側の記録と自分の実名を結びつける経路が最も細いのは、現金とMoneroだとみられる。ただし、どちらにも事業者の外側の痕跡は残る。Moneroなら入手した経路(取引所の本人確認など)、現金なら国際郵便の送付記録だ。日本から現金を送る際の郵便の制約はVPNを匿名で支払う方法で、Moneroの入手経路とそれぞれのリスクはMoneroの入手方法で整理している。Bitcoinは公開台帳に記録が残るので、Mullvadが20日でアドレスを消しても、台帳側の記録は消えない(BitcoinとMoneroの追跡可能性)。カードやPayPalで払う場合、アカウント番号が決済代行会社に渡らないとしても、Mullvadへの支払いという事実はカード会社やPayPalに残る。

5軸評価: 管轄とインフラ#

会社と管轄#

運営会社はMullvad VPN ABで、スウェーデンのヨーテボリにある。公式の「About」ページによれば、親会社はAmagicom ABで、会社は創業者のFredrik StrömbergとDaniel Berntssonが100%所有している。外部の投資家についての記載はない。サービスの開始は2009年3月だ。大手のVPNブランドが複数の会社に買収・統合されてきた中で、所有者が創業者二人に限られていると公式に書いている点は、方針の継続性を読むうえで一つの材料になる。

管轄はスウェーデン法だ。「Swedish legislation」ページは、当局からの要請は調査する前に情報を開示しないこと、要請する側に法的根拠を示させること、外国の当局はスウェーデンの裁判所命令などの仕組みを経なければ原則として管轄権を持たないことを説明している。信号情報機関FRAについては、情報が暗号化されているため信号情報活動では内容に触れられないと書く。件数入りの透明性レポートは、今回の確認では見つからなかった。

RAM-onlyと物理的な管理#

Mullvadは2023-09-20の公式ブログで、VPNインフラからディスクの使用を完全になくしたと発表した。サーバーは独自の起動ローダー「stboot」で起動し、軽量化した独自のLinuxカーネルと、配備前で200MBをわずかに超える程度のOSで動く。再起動や新規配備のたびに新しくビルドしたカーネルと更新済みのOSで立ち上がり、ログファイルの痕跡は残らないという。サーバーについてのヘルプ(2026-01-20更新)も、すべてのVPNサーバーは永続ストレージなしにRAMで動き、ログを保存しないと書いている。

同じヘルプは、サーバーには自社所有(owned)と賃借(rented)の2種類があると明かしている。自社所有のサーバーについては物理的に管理しており、一部は31173 Servicesがホスティングしている。賃借サーバーは専有機で他の利用者と共有しないという。どちらの場合も、ホスティング事業者はサーバー上のOSやソフトウェアに直接アクセスできないと説明する。遠隔管理は踏み台ホストの背後に置き、VPNが稼働した後はLinuxカーネルが外部のUSBやFireWire機器を無効にする。

アプリについては、「Why Mullvad VPN?」ページの機能表で、Windows、macOS、Linux、Android、iOSの全アプリでコードがオープンソースとされ、GitHubのリポジトリにリンクしている。

この記録の読み方#

RAM-onlyは、押収されたサーバーの電源が切れれば中身が残らない設計で、2023年の令状捜査で示された「渡すデータを持たない」考え方をサーバー側にも広げたものと読める。ただし、RAM-onlyは稼働中のサーバーで何が起きているかまでは保証しない。動いている間に記録を取る構成に変えられれば、電源が入っている限りデータは存在する。そこを外から確かめる手段は、前節の監査と、公開されているコードに限られる。「全サーバーが自社所有」ではなく賃借サーバーも混ざっている点は、物理的な管理の度合いがサーバーによって違うことを意味する。

5軸評価: 技術の先端性#

プロトコルと実装#

MullvadはOpenVPNを2026年1月15日に廃止し、WireGuardだけになった。公式ブログ(2025-12-15)は「1か月後にはOpenVPNサーバーがなくなる」と最終告知している。WireGuardの実装はプラットフォームで異なる。「Why Mullvad VPN?」ページによれば、AndroidとmacOSは自社実装のGotaTun、iOSはwireguard-go、LinuxとWindowsはカーネル実装が既定で、DAITAやMultihopを有効にしたときだけGotaTunに切り替わる。同じページは、iOSにも今年中にGotaTunを導入すると書いている(ページに更新日の表示はない)。

耐量子化#

将来の量子計算機による「今記録して後で解読する」攻撃への対策として、Mullvadは耐量子の鍵カプセル化でWireGuardの事前共有鍵を交換する仕組みを入れている。2025-01-09の公式ブログによれば、使うアルゴリズムはClassic McElieceとML-KEMだ。2025年の振り返り記事(2025-12-30)は、すべてのプラットフォームのアプリで耐量子化が既定で有効になったと書いている。

DAITAとトラフィック解析対策#

DAITA(Defense against AI-guided Traffic Analysis)は、暗号化された通信のパケットの大きさや時間的な並びから、どのサイトを見ているかを推定する解析への対策だ。公式ページによれば、VPN上のすべてのパケットを同じ大きさにそろえ、ダミーのパケットを予測できない形で混ぜ、クライアントとサーバーの双方向にカバートラフィックを流す。Karlstad大学のコンピューター科学部門と共同で開発し、Mullvadが資金を出しているオープンソースの防御フレームワーク「Maybenot」の上に作られている。2025-03-28に公開された第2版では、同じ防御水準のままダミーパケットの量を約半分にし、接続のたびにサーバーがランダムな設定を割り当てるようになった。一方で公式ページには、DAITAは「アムステルダム、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨークの一部のサーバーでしか使えない」という注記がある。速度への影響の数値は公式には示されていない。

難読化とMultihop#

VPNの利用そのものを遮断する環境向けに、Mullvadは複数の難読化方式を用意している。制限の厳しい地域向けのヘルプ(2026-11-05更新)が挙げるのは、WireGuardのポート変更、LWO(軽量なWireGuard難読化)、QUIC、Shadowsocks、UDP-over-TCPの5つだ。2025年の振り返り記事によれば、QUICとLWOは2025年に追加され、使えるのはWireGuardサーバーの一部に限られる。

Multihopは、通信を2台のサーバーに順に通す機能だ。ヘルプ(2024-04-17更新)は、各WireGuardサーバーが他のすべてのWireGuardサーバーとトンネルでつながっており、それを使って中継すると説明する。距離が延びるぶん一般に遅くなるとも書いている。

この記録の読み方#

DAITAは、VPN事業者を選ぶ段階でトラフィック解析対策を選べる数少ない例だ。ただし、防いでいるのは利用者とVPNサーバーの間を観測する者による「どのサイトを見ているか」の推定であり、VPNの入口と出口の両方を観測できる相手によるタイミング相関まで消すものではない(通信のタイミング相関とは)。対応サーバーが4都市に限られる以上、使える場面も限られる。難読化は「VPNを使っていることを隠す」ための機能で、匿名性そのものを高めるものではない点も区別しておきたい(検閲回避の考え方はTorの検閲回避で扱っている)。

脅威モデル別の向き不向き#

広告網やデータブローカーへの対策が目的なら、Mullvadを選ぶ利点は小さい。IPアドレスは変わっても、追跡はCookieとブラウザの特徴で続くからだ。MullvadはTor Projectが開発するMullvad Browserを配布しているが(公式ページの記載)、この相手に効くのはVPN事業者の選択よりブラウザ側の対策になる(ブラウザフィンガープリント完全解説)。安価な定額の範囲で通信先をISPから隠したいという程度なら、Mullvadは月額5ユーロの選択肢の一つという位置づけで足りる。

取材源の保護や、通信相手との関係を守りたい場合は、Mullvadの強みが最も効く。番号アカウントで識別子を持たず、現金かMoneroで払えば、VPN事業者の記録から実名にたどり着く経路は細くなる。2023年の令状捜査の記録と公開された監査レポートは、少なくともそれぞれの時点で方針が守られていたことを示す材料になる。ただし、VPN事業者一社が通信の両端の片方を握る構造は変わらない。取材源との連絡そのものは、電話番号を識別子にしないメッセンジャーやTor Browserと組み合わせるほうが合理的だ。VPNはその下で回線事業者から通信先を隠す層と考える。

サーバーを運営する場合は、Mullvadは向かない場面がある。2023年7月1日にポート転送を廃止しており、VPNの出口IPで外からの接続を受けることはできない。Mullvadは理由として、転送したポートが望ましくないコンテンツや悪意あるサービスの公開に使われ、法執行機関からの連絡やIPのブロックリスト入りにつながったことを挙げている。サーバーの外向き通信をトンネルに通す用途なら使えるが、IPを隠したまま公開する構成はクリアネットでIPを隠したままサイトを公開するのように自前のWireGuardで組むほうが筋がよい。

限界と残るリスク#

この記事の事実の多くは、Mullvad自身の公式ページとブログによる。第三者が確かめたのは、監査レポートが対象にした範囲(期間と台数が限られたサーバー、特定版のアプリやコード)にとどまる。令状捜査の経過も、Mullvad側の発表だ。

冒頭で触れたとおり、Mullvadはアフィリエイトを持たない。そのため、VPNの比較サイトでMullvadの扱いが小さいことがあっても、それは匿名性の評価とは別の事情による可能性がある。比較サイトの順位を読むときは、各サービスにアフィリエイトがあるかを確かめる習慣が役に立つ。

評価は2026-11-08時点のものだ。料金、支払い手段、DAITAの対応サーバー、WireGuard実装の切り替えは、この1年の間にも変わってきた。ノーログ方針は2026-06-17に、サーバーのヘルプは2026-01-20に更新されている。方針は事業者が書き換えられる文書であり、所有者が変われば前提も変わりうる。スウェーデンの法律が変わる可能性もある。

支払いの記録は、ノーログ方針の外にある。会計と支払いの記録は法定保存の対象で、Moneroの取引ハッシュは20日を超えて残る。事業者の外側では、Moneroの入手経路、郵便の記録、カード会社の明細が残る。VPN事業者の評価がどれほど高くても、それは通信経路の一区間についての話であり、ログインしたアカウント、ブラウザの特徴、文体や活動時間から特定される経路は別に残る。Mullvadを使っても、匿名が保証されるわけではない。

まとめ#

軸確認できた事実(2026-11-08)第三者による検証読み
ノーログ実績2023-04-18の令状捜査で警察は何も持ち帰らず(Mullvad発表)警察側の資料は未確認L3の材料。1回の時点の記録
監査サーバー監査3回(2022・2023・2024)、アプリ・決済・実装の監査、レポート公開Assured、Radically Open Security、Cure53、X41 D-Sec、Leviathan公開性は高い。サーバー監査は2024-06が最新
匿名開設と決済16桁の番号アカウント、メール不要。現金・Monero・Bitcoin・Lightningほか決済システムは2026-01公表のX41監査の対象識別子と支払いの両面で実名から切り離しやすい
管轄とインフラスウェーデン、創業者2名の100%所有、全VPNサーバーがRAM-only、自社所有と賃借が混在RAM上のサーバーは2023・2024年の監査対象強制処分を前提に「持たない」設計
技術の先端性WireGuardのみ、耐量子化が全アプリで既定、DAITA、難読化5方式、MultihopGotaTunは2026-03公表の監査対象。DAITAは学術研究に基づくと説明DAITAは対応サーバーが限られる

5軸のどれでも、Mullvadには検証できる材料がある。令状捜査で押収されるデータがなかった記録、レポート本文まで公開された監査、メールを求めない番号アカウント、現金とMoneroの受付、全サーバーのRAM-only化、DAITAと耐量子化。弱いのは、サーバー監査の最新が2024年6月であること、DAITAの対応サーバーが4都市に限られること、ポート転送がないことだ。

脅威モデル別に言えば、取材源や通信相手との関係を守る必要があり、VPN事業者の記録から実名への経路を細くしたい人には合理的な選択になる。その場合は、番号アカウントを作り、現金かMoneroで払い、番号をパスワードマネージャーなどで失わないよう保管するところまでを一続きの手順として考えるとよい。広告対策が主目的ならブラウザ側の対策を先に、サーバー運営が目的ならポート転送のない点を前提に構成を考える。支払い経路ごとの残る記録はVPNを匿名で支払う方法、他社との比較はランキング、VPNだけで何が隠せて何が隠せないかはVPNの匿名性を段階別に解説に続く。

出典#

参照日はいずれも2026-11-08。