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はじめに(この記事で分かること)#

ノーログVPNの話になると、Private Internet Access(PIA)の名前はほぼ必ず出てくる。2016年に米連邦裁判所へ提出されたFBIの宣誓供述書に、PIAの運営会社が召喚状に対して「東海岸のIPアドレス群だ」という以上の情報を出せなかったと書かれているからだ。一方でPIAは米国の会社で、2019年からはKape Technologiesの傘下にある。登録にはメールアドレスが要り、暗号資産による支払いは2026-11-08時点の公式ヘルプで「現在は受け付けていない」とされている。

この記事では、PIAを5軸(ノーログ実績、監査、匿名開設と決済、管轄とインフラ、技術の先端性)で評価する。各項目はPIAの公式ページ、Deloitteの保証報告書、裁判所の記録を開いて確認した。参照日は断りがない限りすべて2026-11-08である。先に結論を書くと、PIAは「通信の記録を事業者に残させない」という点では検証材料が多い。その反面、「契約者としての自分を事業者から隠す」手段は限られる。現在は暗号資産で払えず、選択肢はギフトカードやプリペイドカードなどにとどまる。暗号資産の受付を終えた時期は確認できていない。

前提: 脅威モデルの整理#

脅威モデル入門では、隠す相手をISP、プラットフォーム、広告網、法執行機関、標的型攻撃者の5種類に分けた。VPNを挟むと、接続先のサイトからは接続元のIPアドレスが隠れ、ISPからは最終的な接続先と通信の中身が見えにくくなる。ISPに見えていた「どこに接続したか」は、VPN事業者の側に移る。一方で、ISPが持つ契約者情報と割り当てたIPアドレス、VPNサーバーへ接続した時刻と通信量は、VPNを使ってもISPから隠れない(NordVPNのヘルプも、ISPに見える情報として接続した時刻と送受信したデータ量を挙げている)。VPNを選ぶことは、接続先という観測点を誰に預けるかを選ぶことでもある。

VPN事業者に預けるものは2層ある。一つは通信のメタデータ(接続元のIPアドレス、接続時刻、通信量、接続先)。もう一つは契約者情報(メールアドレス、支払いの記録、課税用の住所情報)で、こちらは課金する以上どの事業者も何かしら持つ。「ノーログ」は前者についての約束であり、後者を消す約束ではない。

PIAのプライバシーポリシー(2025-11-03改訂)は、VPN利用者から集める個人データとして、メールアドレス、決済処理に必要な決済データ、米国の課税のための州と郵便番号を挙げる。そのうえで、閲覧履歴、利用者のIP、接続のタイムスタンプ、帯域のログ、DNSクエリは収集も保存もしないと書いている。以下の5軸も、どちらの層の話なのかを分けて読んでほしい。

5軸評価: ノーログ実績#

2016年: フロリダの爆破予告事件#

一次資料は、フロリダ州南部地区連邦地裁に2016-03-08付で登録された刑事告訴状(Case 9:16-mj-08075-JMH, Document 1)と、FBIタスクフォース捜査官の宣誓供述書である。供述書によれば、2015年12月から2016年2月にかけて、パームビーチ郡の高校や空港に偽の爆破予告がTwitterとメールで送られた。

供述書の第33段落は、メール事業者の1&1、Facebook、Twitter、Tracfoneからの回答に含まれたIPアドレスが、いずれも「London Trust Media dba privateinternetaccess.com」にたどり着いたと書く。London Trust Mediaは当時のPIAの運営会社である。続く段落には、同社に召喚状を送ったが、提供できたのは「使われていたIPアドレス群が米国東海岸のものだという情報だけだった」とある。同社は支払いの受付手段(Stripe・Amazon経由のカード、PayPal、BitPay、Bitcoinなど)も回答したが、供述書は「被疑者からLondon Trustへの支払いは捜査で見つかっていない」と記している。

この事件の被疑者は、VPN事業者の記録なしに特定された。供述書に並ぶのは、偽名で買われたプリペイド携帯の購入記録、販売店の防犯カメラ映像、店の警備員が見つけた車のナンバー、購入日と同じ日・同じ額の銀行の現金引き出し、自宅付近を示す基地局の記録である。捜索では、iPhoneからPIAのアプリが見つかり、車内からはPIAのアカウント情報を書いたメモが見つかった。

読み方は二つある。一つは、召喚状を受けても通信と契約者を結びつける記録が出なかったという点で、PIAのノーログの主張と矛盾しない記録だということ。もう一つは、VPN事業者に記録がなくても、端末と現実の行動の側に証拠は十分残っていたということだ。VPNが守ったのは観測点の一つにすぎない。

2018年: Embarcadero Mediaへの不正アクセス事件#

2件目として各社が挙げるのは、サンノゼの連邦地裁で2018年5月から6月に開かれた、地方紙を運営するEmbarcadero Mediaへの不正アクセス事件の公判である。この件は公判記録の原文を確認できておらず、以下は報道に基づく。

Mountain View Voice(2018-06-01)によれば、FBIの捜査官は、同社の従業員のメールアカウントへのアクセスに100を超えるPIAのIPアドレスが使われていたと証言した。TorrentFreak(2018-06-06)は地元紙の報道を引き、London Trust Mediaの法務責任者が、PIAは顧客の氏名や住所を持たず、登録時のメールアドレスだけを保有している、被告の既知のメールアドレス2つでは登録記録が見つからなかった、と証言したと伝えている。同じ記事は「見つからないからといって、その人がVPNを使わなかったことにはならない」という発言も引いている。陪審は2018-06-06、重罪2件と軽罪3件の全訴因で有罪と評決した。Palo Alto Onlineによれば、陪審員の一人は「もっとも説得力があった証拠は、VPN経由のアクセスと、彼自身のメールアカウントへのアクセスだった」と語っている。

この証言は、PIAが何を検索できるかを示している。通信の記録は出てこないが、メールアドレスを手がかりに契約の有無を調べることはできる。これは冒頭で分けた2層のうち、契約者情報の層だ。陪審員の発言からは、VPN事業者の記録とは別に、VPNの出口と本人のアカウントの利用が捜査側の記録の上で重なったことがうかがえる。ただし公判で示された証拠の詳細は報道の範囲でしか分からず、どう重なったのかまでは確認できていない。

なお、年の表記に食い違いがある。PIAの透明性レポートのページは召喚状を受けた年を「2016年と2017年」と書き、No-Logsページは「2016年と2017年の米国の裁判手続き」と書く。報道で確認できる2件目の証言は2018年の公判である。PIAの言う「2017年」が召喚状の送達時期を指すのかどうかは、確認できなかった。

透明性レポート#

PIAは四半期ごとに法的要請の件数を公表している。2026-11-05更新のQ3 2026(2026-07-01〜09-30)は、召喚状2件、令状0件、その他の政府・法執行・民事の要請4件、外国と非公式の要請3件で、ログの提出はいずれも0件だった。これは事業者自身の集計であり、第三者が件数を検証したものではない。

犯罪者向けの手引書に載ったことの読み方#

LockBitのアフィリエイトとされる人物「Bassterlord」が書いた手引書(本サイトが保管する版の表題は「Bassterlord (FishEye) Networking Manual」)は、本サイトが参照資料として保管している。Analyst1(2023-04-22)は、この人物の手引書の第1巻が2021年半ばに地下フォーラムで無料公開されたと書いている。経緯は犯罪者の高度なOPSECの記事も参照してほしい。PDFのメタデータ上の作成日は2021年8月で、環境構築の章の2項目めに「VPN(リンク)。仮想マシンではなく母艦で使うのがよい」とある。PDFに埋め込まれたこのリンクの先は、PIAのロシア語サイト(rus.privateinternetaccess.com)だった。手順の中身はこの記事の対象ではないので扱わない。

ここからは解釈になる。匿名性をもっとも必要とし、もっとも疑い深いはずの層の教材にPIAが載ったことは、皮肉な形の評判と読める。筆者は少なくとも、PIAに記録が残らないと考えたのだろう。本サイトの運営者も、前身サイトを運営していた時期に、この手引書が出回った後でPIAへの申込みが目立って増えたという経験を持っている。ただし手引書との因果は確認していない。

ただし、選ばれたことはノーログの証拠にはならない。価格、知名度、ロシア語のサイトがあったことでも同じ選択は説明できる。そしてこの筆者とされる人物は、2024-02-20に米司法省が起訴状の開示を発表し(「Ivan Kondratyev, also known as Bassterlord」)、同日の米財務省の制裁指定では、本名の表記揺れと「@BASSTERLORD」などの別名、メールアドレスが一つの項目に並べられた。VPN事業者に記録がなくても、匿名性は別の場所で崩れる。2016年の事件と同じ構図である。

5軸評価: 監査#

PIAのノーログの主張は、Deloitte Audit Romania(Deloitte Audit SRL)による保証業務を3回受けている。いずれも国際保証業務基準ISAE 3000(改訂版)に基づく。

1回目は2022年で、PIAのブログ(2022-08-30)は、2022-06-30時点でサーバー設定が社内のプライバシー方針に沿っていたという結論を紹介している。2回目は2024年4月に公表された。ブログ(2024-04-25)は専用IPのトークン方式も対象にしたと書くが、報告書は「PIAのアカウント内で」読めるとしており、一般には公開されていない。評価の基準日はこのブログからは読み取れなかった。3回目の報告書は、PIAのサイトで利用制限の文言に同意すれば誰でもダウンロードできる。

3回目の報告書(2025-12-19、ブカレストで署名)を読むと、範囲と強さが分かる。対象は「2025-10-31時点の」ITシステムの設定と運用管理で、手続きは担当者への質問、VPNサーバーや配布サーバーの設定の確認、アクセス管理・変更管理・構成管理・インシデント管理の方針と運用の確認、サンプルによる展開手順の確認である。結論は「重要な点において記述どおりに整備されていなかったと信じさせる事項は認められなかった」という消極的な形の限定的保証で、合理的保証よりも弱い。報告書は、他の期間についてはいかなる保証も与えないこと、法令遵守の検証ではないことも明記している。

PIAが監査人に示した記述(報告書の付録)には、VPNのサービスは揮発するコンテナ内で動き、永続ディスクを持たないこと、サーバーはフルディスク暗号化を施したRAMディスクで動くこと、ログ出力は/dev/nullに捨てること、外部に出すメトリクスはCPU負荷などのハードウェア情報と接続人数だけであること、などが並ぶ。監査はこの記述と実際の設定を照らし合わせたものだ。

読み方としては、Big4の一角が2022年・2024年・2025年の3回見ている点は評価できる。PIAのブログは2025年の回を、2022年と2024年に続く3回目の審査と書いている。一方で、どの回も基準日1日の状態の確認であり、2024年の報告書は一般に読めない。ノーログVPNの記事で書いたとおり、監査は時点評価で、継続性と公開性で重みが変わる。

5軸評価: 匿名開設と決済#

アカウントの識別子はメールアドレスである。プライバシーポリシーは、登録に必要なものは「メールアドレスと支払い」の2つだと書く。メール不要の番号アカウントを発行する事業者(Mullvadなど)とは、ここで差がつく。

支払い手段は、公式ヘルプ「What Payment Methods Do You Accept?」の記載では次のとおりだ。自動更新できるのはクレジットカード(Visa、Mastercard、American Express、Discover)、Apple Pay、Google Pay、PayPal、Amazon Pay(一部地域のみ)。一回払いはPaymentwall経由のデジタルウォレット(iDEAL、Qiwiなど)、ギフトカード、プリペイドのVisa・Mastercardである。一回払いの契約は、メールで届く専用リンクからしか更新できず、何もしなければ期限後11日の猶予期間の後にアカウントが終了する。プリペイドカードは発行元に登録済みで、決済画面の請求先住所がその登録と一致している必要がある、とも書かれている。

ギフトカードについては、アカウント確認の手順のページが「PayGarden経由の購入(Macy'sやWalmartなどのギフトカード)、またはPIAや第三者のギフトカード」と書いている。小売店のギフトカードを現金で買って支払えば、カード会社の記録とは切り離しやすい。ただ、メールアドレスは残り、PayGardenという決済の仲介者が購入を見ることになる。

暗号資産は受け付けていない。アカウント確認のページは「PIAは現在、暗号資産による支払いを受け付けていない」と注記し、BitPayの項目は受付終了前の購入にだけ当てはまるとしている。自動更新のページも「暗号資産による支払いはもう受け付けていない」と書く。終了の時期を示す公式の告知は見つからなかった。2016年の供述書ではBitPayとBitcoinが受付手段に入っていたので、どこかの時点で終わったことになる。

ただし、公式の文書の間で記述がそろっていない。プライバシーポリシー(2025-11-03改訂)は、決済パートナーとしてStripe、Amazon Payments、PayPalと並べてBitPayを挙げ、暗号資産での支払いは売上税を同社が負担し所在地を尋ねないので匿名だ、という説明を残している。この記事では、支払い手段について新しく具体的なヘルプの記載を採った。

料金は、購入ページの表示(日本からのアクセス、米ドル表記)で、1か月プランが11.95ドル、1年プランが初年度47.88ドル(月あたり3.99ドル)で以後も年47.88ドルで自動更新、3年と4か月のプランが81.20ドル(月あたり2.03ドル)で3年ごとに81.20ドルで自動更新だった。30日の返金保証は新規契約者のみで、アプリストア経由の購入は各ストアの規約による。確認時はブラックフライデーの販促が表示されており、価格は時期で変わりうる。

支払いの手段ごとの痕跡の違いはVPNを匿名で支払う方法で扱っている。PIAの場合、決済の層はギフトカードで薄くできても、識別子の層にはメールアドレスが残る。その弱さを補う手段の一つが、本人と結びつかないメールエイリアスだ。

5軸評価: 管轄とインフラ#

運営会社はPIA Private Internet Access, Inc.で、プライバシーポリシーの法的要請の送付先は米国コロラド州デンバー、Deloitteの報告書の宛先は同州グリーンウッドビレッジである。個人データは主に米国で保存するとポリシーは書く。法的手続きの面では、米国の召喚状や令状の対象になる。PIA自身は2022年のブログで、米国本社が懸念材料として挙げられてきたことを認めたうえで、消費者保護法があるため米国政府は米国のVPN事業者にノーログ方針を破らせることはできない、と主張している。これは事業者の法的見解であり、この記事では検証していない。

親会社はKape Technologiesである。PIAは2019-11-20のブログで、Kapeとの合併に向けた発表を受け、ノーログの方針は維持すると説明した。Kapeの公式サイトは2026年時点でもPIAを自社ブランドとしてExpressVPN、CyberGhostと並べて載せ、本社をロンドンとしている。Kapeは2023年に大株主のUnikmind Holdingsによる買収提案を受け、2023-04-27の告知では約79.69%の持分を確保し、2023-05-31にロンドン証券取引所AIMから上場廃止される見込みだとした。プライバシーポリシーには、サービス提供に合理的に必要な範囲で、最終持株会社とその子会社の「グループ会社」に個人データを開示することがあるとも書かれている。

ここからは評価になる。非上場化によって、親会社の決算や重要事実が開示義務の形で出てくることはなくなったとみられる。グループ内で同じ親を持つExpressVPNについての論点はExpressVPNレビューで扱う。Kapeの来歴をどう重く見るかは読者の脅威モデルによるが、PIA単体の運用記録とは分けて考えたい。

インフラについて、No-Logsページは全サーバーがRAMだけで動きハードディスクに書き込まないこと、全サーバーを定期的に再起動してデータを消すことを書いている。サーバー一覧のページも「定期的にスケジュールしている」再起動のたびにデータが消えると書くが、間隔は示していない。RAM-onlyの構成は、上で触れたDeloitteの報告書の付録にも記述されている。

ネットワークは113か国・180拠点と表示されている。法規制などで方針を守れない地域では「仮想サーバー」を置き、たとえばインドの拠点は実際にはシンガポールの機材を使うと明記している。2022年のブログは、自前で管理するコロケーションへの移行を「徐々に進めている」と書いていたが、2026年時点の移行状況を示す公式の記述は見つけられなかった。

アプリはオープンソースで、透明性レポートのページによれば2018年に公開した。専用IP(有料オプション)は、トークン方式でアカウントと結びつかないとされ、Deloitteの報告書の付録にも「専用IPのトークンはサーバー側で利用者と結びつけられない」「トークンはクライアントにだけ保存される」とある。

5軸評価: 技術の先端性#

対応プロトコルは、サーバー一覧の表によればWireGuard、OpenVPN、IKEv2/IPSecである。

難読化は、デスクトップアプリの「Multi-Hop and Obfuscation」で提供されている。公式ヘルプによれば、通信は「端末 → プロキシ → PIAのVPNサーバー → インターネット」と流れ、利用中のネットワークからはプロキシへの接続しか見えない。プロキシの種類はShadowsocksとSOCKS5から選び、ヘルプはVPNを遮断するネットワークではShadowsocksを勧めている。SOCKS5はプロキシまでの区間を暗号化しない。検閲下でのTorのブリッジとの比較はTorの検閲回避を参照してほしい。

耐量子の鍵交換については、公式サイトとヘルプの範囲で記述を見つけられなかった(2026-11-08、公式ドメインに絞った検索)。トラフィックの長さやタイミングを崩してパターン解析を難しくする機能(MullvadのDAITAのようなもの)も、公式の説明には見当たらない。どちらも「実装していない」と断定はできず、「公式の説明で確認できなかった」という意味である。VPNがタイミング相関に対してどこまで無力かは、タイミング相関の記事で扱っている。

脅威モデル別の向き不向き#

広告網とデータブローカーを避けたい人にとって、PIAが閲覧の記録を残さないことは、ISPから行動履歴が取られないという意味では役に立つ。ただし広告網はCookieとブラウザの特徴で追ってくるので、VPNだけでは効果が小さい。この脅威モデルなら、PIAの監査実績よりもブラウザの設定のほうが成果を左右する。

取材源を守る記者にとって、PIAは「通信の記録を事業者が持たない」ことを第三者の材料で確かめやすい事業者だ。2016年の供述書とDeloitteの報告書は、宣言だけの事業者より一段強い。一方で、契約者の層は米国の召喚状が届く場所にあり、2018年の証言のとおりメールアドレスで契約の有無は調べられる。この脅威モデルなら、取材専用のメールエイリアスで登録し、ギフトカードで払い、取材源との接触そのものはTorや電話番号を使わない連絡手段に分けるのが合理的だ。契約者として名前を出したくない度合いが高いなら、メールを使わない番号アカウントの事業者(Mullvadレビュー)と比べてから決めたい。

サーバーを運営する開発者にとって、VPNが守るのは管理者の接続元だけだ。専用IPはアカウントと結びつかないとされているが、同じIPから管理画面に入り続ければ、そのIPの行動は互いにつながる。サーバー自体が外に出している情報は、Shodan/Censysの記事の手順で先に点検したほうがよい。この脅威モデルでは、VPN事業者の選択より優先順位の高い作業が多い。

限界と残るリスク#

まず、第三者が検証した事実と、PIAの自己申告を分けておく。第三者の材料は、2016年の連邦裁判所の記録と、Deloitteによる3回の限定的保証(それぞれ基準日1日の状態)である。2018年の公判の内容は報道経由でしか確認していない。透明性レポートの件数、サーバーの定期再起動、コロケーションへの移行は、PIA自身の説明である。

次に、評価は時点のものだ。2025年の報告書は2025-10-31時点の設定についての保証で、それ以降の運用を保証しない。この記事の内容も2026-11-08時点で確認したものである。

方針は変わりうる。プライバシーポリシーは、変更は改訂版を表示した時点で即時に効力を持つと定めている。暗号資産の受付が日付のある告知なしに終わり、プライバシーポリシーにはその前提の説明が残っていることは、利用者が気づかないうちに条件が変わる例として見ておきたい。親会社が非上場であることで、そうした変化が外から見えにくくなっている面もある。

最後に、事業者の記録の有無は匿名性の一部でしかない。2016年の事件で被疑者を特定したのは、携帯の購入、防犯カメラ、銀行の記録、端末に残ったアプリだった。VPNの選択が完全な匿名を生むことはない。

まとめ#

5軸の評価を表に戻す(2026-11-08時点)。

軸評価根拠
ノーログ実績○2016年の連邦裁判所の宣誓供述書で、召喚状への回答が「東海岸のIP群」だけだった記録。2018年の公判証言は報道で確認
監査○Deloitte(ISAE 3000、限定的保証)を2022・2024・2025年に3回。2025年の報告書は公開、2024年は契約者のみ
匿名開設と決済△メールアドレス必須。暗号資産は受付終了。ギフトカード、プリペイドVisa・Mastercardは公式の一覧に記載あり
管轄とインフラ△米国法人、Kape傘下(Kapeは2023年に非上場化)。RAM-onlyは監査報告書の付録に記述あり
技術の先端性△Shadowsocksによる難読化あり。耐量子とトラフィック解析対策は公式の説明で確認できず

この結果から読者が取る行動は、脅威モデルで分かれる。広告対策が目的なら、PIAの安い長期プランで十分で、むしろブラウザ側の対策に時間を使うほうがよい。取材源の保護が目的なら、PIAを使う場合でもメールエイリアスとギフトカードで契約者の層を薄くし、そのうえで識別子の層を持たない事業者と比べて選ぶ。どちらの場合も、VPN事業者の記録がないことは、端末や行動に残る証拠を消さない。他社との横並びの比較は匿名性重視のVPNランキングにまとめている。

料金や現在の支払い手段は、契約の前にPrivate Internet Access公式サイトの購入画面で確かめてほしい(広告・紹介リンク。VPN Cafe経由でPIA公式サイトへ移動します)。

出典#